
近年、工場や物流拠点、インフラ点検などで注目される「ワイヤレス給電」。その性能を左右する重要な指標のひとつが「効率」です。ワイヤレス給電の効率は、距離や周波数、コイル設計など多くの要素に影響され、単純な数式だけでは計算できない複雑な仕組みを持っています。
特に製造業では、省エネ化や自動化推進の観点から、効率の高いワイヤレス給電システムの導入が求められています。この記事では、ワイヤレス給電の効率とは何か、どのように計算・評価するのか、また効率を高めるための設計ポイントについて、わかりやすく解説していきます。
ワイヤレス給電における「効率」とは何か?
ワイヤレス給電効率の定義と重要性
ワイヤレス給電における「効率」とは、送電側が供給した電力に対して、受電側が受け取れた電力量の比率を指します。たとえば送信した100Wのうち80Wが受信できた場合、効率は80%となります。この効率が低いと、エネルギーロスが増え、充電時間の長期化や機器の発熱リスクにつながります。特に製造業においては、電力ロスがそのままコスト増加に直結するため、効率の高さが極めて重要視されています。
なぜ製造業で効率が重視されるのか
製造業では、省エネ推進や環境配慮(カーボンニュートラル)、そしてSDGs(持続可能な開発目標)への対応が求められています。エネルギー効率の悪いワイヤレス給電システムを導入すると、結果としてエネルギー使用量が増加し、コストと環境負荷の両面でデメリットが生じます。そのため、高効率設計が経営判断において重要な評価軸になっています。
ワイヤレス給電の効率を左右する要素
送電距離と効率の関係
ワイヤレス給電では、送電距離が長くなると効率が下がる傾向があります。特に電磁誘導方式では、送受信コイル間の距離が数センチメートル離れるだけでも急激に伝送効率が低下します。一方で、磁界共振方式では数十センチから数メートルの範囲でも比較的安定した効率を維持できる技術も開発されています。
周波数と伝送効率の関係
周波数の設定も効率に大きく影響します。一般に高周波(MHz帯以上)を使うことで、小型コイルでも高効率を実現できる反面、電磁波干渉(EMI)や安全基準への対応が求められるため、システム設計は慎重さが必要です。逆に低周波(kHz帯)では安定性と安全性が高くなる一方で、コイルサイズが大型化する傾向があります。
コイル設計の工夫と最適化ポイント
コイル設計はワイヤレス給電効率に直結する重要なファクターです。 主な最適化ポイントは以下の通りです。
・コイルの直径:大きい方が遠距離伝送に有利
・巻数:多いほど磁束密度が高くなりやすい
・配置方法:送受電コイルの位置ズレ(オフセット)耐性を高める設計が有効
これらをバランスよく設計することが、高効率化のカギを握ります。
ワイヤレス給電効率の計算方法
基本式の紹介:送受電間の電力伝送効率
基本的なワイヤレス給電効率(η)は、以下の式で表されます。
η(効率)= (出力電力 (Pout) / 入力電力 (Pin)) x 100(%)
例えば、送電100Wに対して受電80Wなら、効率は80%です。ただし実際には、コイル間の結合係数、周波数応答、伝送ロスなども加味する必要があり、シンプルな式だけで正確に予測するのは困難です。
実験・測定で得られる実効効率の評価方法
現場では、理論値よりも「実効効率」の測定が重視されます。主なポイントは以下です。
・実験環境(温度・湿度・障害物)の再現性確保
・送受電位置ズレ(ミスアライメント)への耐性確認
・周波数帯域の変動影響チェック
これらを踏まえた総合評価により、実運用に耐えうる効率を見極めます。
製造業がワイヤレス給電導入時に考慮すべきポイント
効率と運用コストのバランスをどう取るか
「高効率=高コスト」という関係性も忘れてはなりません。すべての現場で最高効率を追求するのではなく、必要十分な効率を確保しつつ、運用コストとのバランスを取ることが現実的な戦略です。たとえば、ナブテスコ社が提供するワイヤレス給電技術では、用途に応じたモジュール選択が可能で、過剰スペックによるコスト増を防げる柔軟な設計が特徴です。
まとめ
ワイヤレス給電における「効率」は、単なる数値指標ではなく、製造業の省エネ・自動化推進に直結する課題です。距離・周波数・コイル設計など多様な要素が複雑に絡み合う中、現場環境に最適化したシステム選定が不可欠です。導入前には、「実効効率」と「運用コスト」のバランスを見極めながら、長期的な効果を最大化する戦略を描くことが成功の鍵となるでしょう。
