
工場のAGV(無人搬送車)から製品に組み込む蓄電デバイスまで、製造業のあらゆるシーンで活用されるリチウムイオンバッテリー。その性能が、生産性や製品の競争力に直結します。
この記事では、リチウムイオンバッテリーの基本的な仕組みから主要6種類(LCO、LMO、NMC、NCA、LFP、LTO)の特徴比較、運用上のデメリットと課題、そしてこれらの充電課題を根本から解決するワイヤレス給電技術まで詳しく解説します。
リチウムイオンバッテリーとは?
リチウムイオンバッテリーは、高いエネルギー密度と長寿命から、スマートフォンや電気自動車、AGV(無人搬送車)、産業用ロボット、定置用蓄電システムまで幅広い用途で不可欠な存在です。
正極材、負極材、電解液、セパレータの4つの部品で構成され、充電時はリチウムイオンが正極から負極へ、放電時は負極から正極へ移動することで電気が発生します。
産業用途で選ばれる理由は、高エネルギー密度による機器の小型化と稼働時間の延長、高出力による高負荷作業への適応、長寿命によるメンテナンスコストの削減、低い自己放電率です。これらの特性が製造現場の生産性向上に直結するため、多くの企業で採用が進んでいます。
リチウムイオンバッテリーの種類一覧
ここでは、リチウムイオンバッテリーの種類一覧を解説します。
【種類①】コバルト酸リチウム(LCO)の特徴と用途
コバルト酸リチウム(LCO)は、最も古くから実用化されているリチウムイオンバッテリーで、非常に高いエネルギー密度が特長です。小型・軽量で大容量の電力を供給できるため、スマートフォン、ノートPC、デジタルカメラなどの小型電子機器に広く採用されています。ただし、熱安定性が比較的低く、過充電や高温環境での使用には注意が必要です。産業用途では厳格な熱管理システムが求められ、コストも高めです。
【種類②】マンガン酸リチウム(LMO)の特徴と用途
マンガン酸リチウム(LMO)は、安全性と出力特性に優れたバッテリーです。結晶構造が安定しているため熱暴走のリスクが低く、内部抵抗が低いため瞬間的に大きな電力を供給できます。電動工具、医療機器、ハイブリッド電気自動車(HEV)など、安全性と高出力が求められる用途で採用されています。エネルギー密度はLCOよりやや低く、高温環境下でのサイクル寿命が短くなる可能性がありますが、コストは抑えられます。
【種類③】ニッケル・マンガン・コバルト酸リチウム(NMC)の特徴と用途
ニッケル・マンガン・コバルト酸リチウム(NMC)は、現在最も広く普及しているバランス型バッテリーです。ニッケル、マンガン、コバルトを複合的に使用することで、高エネルギー密度、高出力、長寿命、高い安全性を高いレベルでバランスさせています。電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)の駆動用バッテリーとして主流で、産業用ロボット、AGV、ドローンなど製造業の幅広い分野で採用が拡大しています。コストと性能のバランスも優れています。
【種類④】ニッケル・コバルト・アルミニウム酸リチウム(NCA)の特徴と用途
ニッケル・コバルト・アルミニウム酸リチウム(NCA)は、高エネルギー密度と長寿命を両立させたバッテリーです。ニッケルを多く含むことでLCOに匹敵する高いエネルギー密度を実現し、アルミニウムの添加で安定性とサイクル寿命を向上させています。航続距離の長い電気自動車(EV)や高性能が求められる産業用途で採用されています。材料コストが高く、熱安定性には高度なバッテリーマネジメントシステム(BMS)による厳密な管理が必要です。
【種類⑤】リン酸鉄リチウム(LFP)の特徴と用途
リン酸鉄リチウム(LFP)は、高い安全性と長寿命が最大の特徴です。熱安定性が非常に高く、過充電や外部からの衝撃に対しても熱暴走を起こしにくく、充放電サイクル寿命が他の種類に比べて格段に長くなっています。家庭用・産業用の定置用蓄電システム、電動フォークリフト、バス、非常用電源など、安全性と信頼性が最優先される用途で広く採用されています。製造現場では、長寿命により交換頻度の低減とメンテナンスコストの削減が可能で、AGVや搬送ロボットへの採用が増えています。
【種類⑥】チタン酸リチウム(LTO)の特徴と用途
チタン酸リチウム(LTO)は、負極材にチタン酸リチウムを使用する特殊なタイプです。非常に高いレートでの急速充電・放電が可能で、充放電サイクル寿命が他のバッテリーより格段に長く(数万サイクル以上)、低温環境下での性能劣化も少ないという特性があります。短時間で充電を完了させ、連続稼働が求められる業務用車両(EVバス、鉄道車両)、建設機械、UPS(無停電電源装置)、非常用電源などに適しています。エネルギー密度が低く製造コストも高いため、その特性が必須となる特定の用途に限定されます。
製造業における用途別バッテリーの選び方
製造業の現場では、機器の特性や稼働環境によって最適なバッテリーが異なります。以下に主要な用途別の選定ポイントを解説します。
AGV・自動搬送ロボット向けの選定ポイント
- 稼働時間と充電頻度:長時間の連続稼働が必要な場合は高エネルギー密度のNMCやNCA。頻繁な充電が可能であれば、安全性と長寿命のLFPも選択肢に。
- 急速充電:ダウンタイムを最小限に抑えたい場合は、急速充電が可能なLTOも検討。
- 安全性:人との協働や狭い場所での運用が多い場合は、熱安定性の高いLFPやLMOが望ましい。
- サイクル寿命:24時間稼働など、頻繁な充放電が予想される場合は、長寿命のLFPやNMC、LTOが有利。
産業用ドローン向けの選定ポイント
- エネルギー密度:飛行時間を最大化するため、高エネルギー密度のNMCやNCAが主流。
- 軽量性:ペイロード(積載量)や飛行性能に直結するため、グラム単位での軽量化が重要。
- 高出力:離陸時や急加速時に必要な瞬間的な大出力に対応できるか。
- 低温性能:屋外での使用が多いため、低温環境下での性能維持も考慮。
製造装置・検査機器向けの選定ポイント
- 安定した電力供給:精密な動作が求められるため、電圧変動が少なく安定した電力供給が可能なバッテリー。
- 安全性:装置の故障や生産ラインへの影響を避けるため、高い安全性が求められる。LFPなどが適している。
- 長寿命:装置の稼働期間が長いため、バッテリー交換頻度を抑えられる長寿命タイプが望ましい。
- サイズ・形状:装置内部の限られたスペースに収まるか、カスタマイズの可否も重要。
フォークリフト・運搬機器向けの選定ポイント
- 安全性:構内での事故リスクを低減するため、熱安定性の高いLFPが非常に有利。
- 長寿命:過酷な環境での頻繁な充放電に耐えうる、高いサイクル寿命が求められる。LFPが最適。
- 高出力:重量物の運搬や坂道での走行に必要なパワーを供給できるか。
- 急速充電:多忙な現場では、短時間での充電完了が生産性に直結するため、LFPやLTOが検討される。
リチウムイオンバッテリーのデメリットと運用上の課題
高い性能を持つリチウムイオンバッテリーですが、製造業の現場で導入・運用する際には、いくつかのデメリットと課題が存在します。
充電時間とダウンタイムの問題
完全充電には一定の時間を要するため、AGVやフォークリフトなど連続稼働が求められる機器では充電のためのダウンタイムが発生し、生産効率の低下を招きます。予備バッテリーの用意や交換作業も手間とコストがかかります。
温度管理の必要性
高温・低温環境下で性能が低下したり劣化が早まるため、適切な温度管理が不可欠です。バッテリー冷却・加熱システムが必要な場合、導入コストや運用負荷が増大します。また、鉛蓄電池と比較して初期導入コストが高く、特に大型バッテリーや高性能なバッテリーマネジメントシステム(BMS)は高額になりがちです。
安全管理とメンテナンス体制
誤った使用や管理により発熱・発火のリスクがあるため、適切な充電プロトコル、過充電・過放電防止、定期的な点検といった厳格な安全管理が求められます。万が一のトラブルに備えたメンテナンス体制や廃棄方法の確立も重要です。
製造現場におけるバッテリー充電の課題とは
製造現場の生産性に大きな影響を与えるのが「充電」にまつわる課題です。これは、どの種類のリチウムイオンバッテリーを選んでも共通して発生する構造的な問題と言えます。
稼働率低下とスペース問題
複数のAGVやロボットが限られた充電ステーションを共有する場合、充電待ち時間が発生し、機器の稼働率が低下します。また、充電ステーションは充電器本体やバッテリー保管スペース、安全距離の確保など一定の面積を必要とし、工場内の貴重なスペースを圧迫して生産ラインのレイアウトを制約します。
保守コストと人的負担
有線充電では、接点部分が頻繁な抜き差しや振動で摩耗・劣化し、接触不良や充電効率の低下を招きます。定期的な点検・交換といった保守コストや手間が発生するほか、バッテリーの着脱や充電ステーションへの移動は作業員の負担となり、充電忘れや誤接続のリスクも伴います。
充電課題を解決するワイヤレス給電技術
製造現場における構造的な充電課題を根本から解決し、生産性を飛躍的に向上させるのが「ワイヤレス給電技術」です。
ワイヤレス給電とは
ワイヤレス給電(非接触給電)は、電磁誘導や磁界共鳴の原理を利用し、ケーブルや物理的な接点なしに電力を供給する技術です。送電側と受電側の間に磁界を発生させて電力を伝送するため、バッテリー搭載機器はケーブル接続の手間なく、自動的かつ継続的に充電されます。
導入によるメリット
製造現場にワイヤレス給電を導入することで、以下のような多大なメリットが期待できます。
- 稼働率の最大化:AGVやロボットが作業中に自動充電されるため、充電待ち時間がなくなり、稼働率をほぼ100%に近づけられます。
- 省スペース化とレイアウトの自由度向上:充電ステーションの専用スペースが不要になり、給電コイルを床下や壁に埋め込むことで空間を有効活用できます。
- メンテナンスコストの削減:物理的な接点がないため、摩耗や劣化による部品交換が不要で、接触不良のリスクも解消されます。
- 作業負担の軽減と安全性向上:充電作業が不要になり、作業員の負担軽減とヒューマンエラーのリスク低減につながります。ケーブルによる事故の危険性もなくなります。
- クリーンルーム対応:ケーブルの抜き差しによる塵埃発生がなく、クリーンルーム内の自動搬送機器に最適です。
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よくある質問(FAQ)
リチウムイオンバッテリーは何種類ありますか?
リチウムイオンバッテリーは、正極材の種類によって大きく6種類に分類されます。コバルト酸リチウム(LCO)、マンガン酸リチウム(LMO)、ニッケル・マンガン・コバルト酸リチウム(NMC)、ニッケル・コバルト・アルミニウム酸リチウム(NCA)、リン酸鉄リチウム(LFP)、そして負極材が異なるチタン酸リチウム(LTO)です。それぞれエネルギー密度、安全性、寿命、コストなどの特性が異なります。
リチウムイオンバッテリーの安全性は?
リチウムイオンバッテリーは、適切に使用・管理されていれば安全なバッテリーです。しかし、過充電・過放電、外部からの衝撃、高温環境下での使用など、誤った取り扱いをすると発熱・発火のリスクがあります。特にリン酸鉄リチウム(LFP)は熱安定性が高く、安全性が高いとされています。使用する際は、必ずメーカーの指示に従い、適切なバッテリーマネジメントシステム(BMS)が搭載された製品を選定することが重要です。
リチウムイオンバッテリーの寿命や手入れ方法は?
リチウムイオンバッテリーの寿命は、種類や使用方法によって大きく異なりますが、一般的に500~3000サイクル(充放電回数)程度、期間としては5~10年が目安とされています。長寿命化のためには、以下の点に注意してください。
- 過充電・過放電を避ける:満充電や完全放電の状態を長時間維持しない。
- 適切な温度管理:高温・低温環境での使用や保管を避ける。
- 保管時の充電量:長期間保管する場合は、50~70%程度の充電量で保管する。
- 衝撃を与えない:落下や外部からの強い衝撃を避ける。
これらの手入れにより、バッテリーの劣化を抑制し、寿命を延ばすことができます。
まとめ
製造業において、リチウムイオンバッテリーは生産性向上と製品競争力強化の鍵です。
各バッテリーの特性を理解し、自社の用途に最適なものを選定することが投資対効果を最大化する第一歩となります。
しかし、どのバッテリーでも「充電」による稼働率低下、スペース問題、メンテナンスコスト、人的負担といった課題は避けられません。
これらを根本から解決するのが、ナブテスコのワイヤレス給電ソリューションです。充電待ち時間をなくし、設備スペースを有効活用し、メンテナンスフリーを実現。持続可能で高効率な生産体制の構築に、ぜひワイヤレス給電の導入をご検討ください。




