
スマートフォンから電気自動車、産業用ロボットまで、現代社会のあらゆる場面でバッテリーが活用されています。しかし、バッテリーがどのような仕組みで電気を蓄え、供給しているのかを正しく理解している方は意外と少ないのではないでしょうか。
本記事では、バッテリーの基本的な仕組みから、リチウムイオン電池をはじめとする各種バッテリーの特徴、さらには次世代の給電技術まで、製造業の経営判断に役立つ情報を網羅的に解説します。
バッテリーの基本的な仕組み
まず、バッテリーの基本的な仕組みを解説します。
バッテリーとは何か
バッテリーとは、化学エネルギーを電気エネルギーに変換して外部に取り出し、蓄えることができる装置の総称です。日本語では「蓄電池」とも呼ばれます。電力を貯蔵できるため、電力系統から切り離された状態でも電子機器や機械を動かすことができ、現代社会の基盤を支える重要な技術です。
化学反応による電気エネルギーの蓄積と放出
バッテリーの内部では、電気を蓄える「充電」と、電気を取り出す「放電」という2つの働きが、可逆的な化学反応によって行われています。具体的には、内部にある2種類の金属(または化合物)と電解液の間でイオンが移動し、それに伴って電子が外部の回路を流れることで、電気が発生(放電)します。逆に、外部から電気エネルギーを与えることで、この化学反応を逆方向に進め、元の状態に戻すのが「充電」です。
一次電池と二次電池の違い
電池には、使い切りの「一次電池」と、充電して繰り返し使える「二次電池」があります。本記事で扱う「バッテリー」は、この二次電池を指します。
- 一次電池:放電のみが可能で、充電はできない。例:乾電池、ボタン電池など。
- 二次電池(バッテリー):充電と放電を繰り返すことが可能。例:リチウムイオン電池、鉛蓄電池など。
バッテリーの主要構成要素(正極・負極・電解質・セパレータ)
すべてのバッテリーは、基本的に以下の4つの要素で構成されています。
- 正極(+):放電時に電子を受け取る電極。リチウムイオン電池ではリチウム遷移金属酸化物などが使われます。
- 負極(-):放電時に電子を放出する電極。リチウムイオン電池では黒鉛(グラファイト)などが使われます。
- 電解質:正極と負極の間を満たし、イオンが移動するための媒体。液体(電解液)やゲル状、固体などがあります。
- セパレータ:正極と負極が直接触れてショート(短絡)するのを防ぐための微細な孔のあいた膜。イオンのみを通過させます。
リチウムイオン電池の仕組みと特徴
リチウムイオン電池が普及した理由
現在、最も広く使われているバッテリーがリチウムイオン電池です。その理由は、他のバッテリーと比較して「小型・軽量」でありながら「高電圧・高エネルギー密度」を実現できる点にあります。これにより、スマートフォンやノートPCの長時間駆動、電気自動車(EV)の航続距離伸長、産業用ロボットの小型化・高性能化など、多くの製品で技術革新が可能になりました。
充放電のメカニズム
リチウムイオン電池では、正極と負極の間をリチウムイオン(Li+)が行き来することで充放電が行われます。
- 充電時:正極にあるリチウムイオンが電解質を通って負極に移動し、負極材の層間に蓄えられます。
- 放電時:負極に蓄えられていたリチウムイオンが、再び電解質を通って正極に戻ります。このとき、電子(e-)が外部の回路を通って正極に移動することで、電気が流れます。
リチウムイオン電池のメリット・デメリット
メリット:
- 高いエネルギー密度(小型で大容量)
- 高い作動電圧
- メモリー効果(使い切らずに充電を繰り返すと容量が減る現象)がない
- 自己放電が少ない
- 過充電や過放電に弱く、発火・発煙のリスクがあるため、高度な保護回路が必要
- 比較的高価である
- 主原料であるリチウムやコバルトなどの資源が偏在している
産業用途での活用事例
製造業においては、AGV(無人搬送車)やAMR(自律走行搬送ロボット)、電動フォークリフト、産業用ドローン、電動工具などの動力源として広く採用され、工場の自動化や生産性向上に大きく貢献しています。
その他の主要バッテリーの種類と仕組み
ニッケル水素電池
リチウムイオン電池が登場する前に広く使われていたバッテリーです。過充電や過放電に比較的強く、安全性が高いのが特徴です。ハイブリッドカーのバッテリーや充電式乾電池として今も利用されています。
鉛蓄電池
160年以上の歴史を持つバッテリーで、低コストで大電流を安定して供給できるのが最大のメリットです。自動車のバッテリーや、フォークリフト、ビルの非常用電源など、高い信頼性が求められる用途で広く使われています。
ニッケルカドミウム電池
過酷な温度環境でも性能が安定しており、過充電・過放電に強いという特徴があります。しかし、有害物質であるカドミウムを含むため、現在ではニッケル水素電池やリチウムイオン電池への置き換えが進んでいます。
全固体電池(次世代バッテリー)
電解質に液体ではなく固体を用いる次世代のバッテリーです。液漏れのリスクがなく、発火しにくいため安全性が飛躍的に向上します。また、エネルギー密度が高く、急速充電にも対応できるため、EVや産業用途での実用化が期待されています。
各バッテリーの比較表
| 種類 | 概要 | 主な特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| リチウムイオン電池 | 高い電圧と大きなエネルギーを取り出すことができ、現在主流となっている二次電池。 | ・エネルギー密度が非常に高い・軽量で繰り返し利用に強い・安全確保のため保護回路が必須 | ・スマホ、PC・電気自動車(EV)・AGV、ロボット |
| ニッケル水素電池 | 過放電や過充電に強く、環境負荷の低い材料を用いた二次電池。 | ・エネルギー密度、コストともに中程度・信頼性が高く、安全性が高い・乾電池型充電池として普及 | ・ハイブリッドカー・ポータブル機器・充電池(エネループ等) |
| 鉛蓄電池 | 150年以上の歴史があり、安価で信頼性が非常に高い大型の二次電池。 | ・エネルギー密度は低いが非常に安価・大電流を流すことが可能・電解液に希硫酸を使用 | ・自動車(始動用)・フォークリフト・非常用電源、バックアップ |
| 全固体電池 | 電解液を固体に置き換えた、発火リスクが極めて低い次世代の二次電池。 | ・(将来的には)最高の密度を実現・非常に高い安全性と高速充電・(現状)製造コストが非常に高い | ・次世代EV(開発中)・宇宙、医療機器など |
製造業におけるバッテリー活用の課題
バッテリー技術は製造現場の自動化に貢献する一方、その仕組みに起因する構造的な課題も存在します。これらは経営層が認識すべき重要なコスト要因・リスク要因です。
充電時間とダウンタイムの問題
AGVや電動フォークリフトは、充電のために稼働を停止する必要があります。この充電時間(ダウンタイム)は、そのまま生産ラインの非稼働時間となり、機会損失に直結します。24時間稼働の工場では、バッテリー交換作業のための人員や予備バッテリーのコストも発生します。
バッテリー寿命とメンテナンスコスト
バッテリーは充放電を繰り返すことで徐々に劣化し、寿命を迎えます。定期的な交換コストはもちろん、充電コネクタ部分の摩耗や腐食による接触不良は、設備の安定稼働を妨げる要因となり、予期せぬメンテナンスコストや人件費を発生させます。
設置スペースと配線の制約
バッテリーを搭載する機器は、その分の重量やスペースを確保する必要があり、製品設計の自由度を下げます。また、充電ステーションの設置スペースや、そこに至るまでの複雑な配線(ケーブル)は、工場のレイアウト変更を困難にし、柔軟な生産体制の構築を阻害します。
安全性とリスク管理
特にリチウムイオン電池は、取り扱いを誤ると発火・発煙のリスクがあります。高温環境での使用や、衝撃・損傷には細心の注意が必要です。バッテリーの保管方法や充電プロセスの管理、万が一の事故に備えた安全対策は、製造現場における重要なリスク管理項目です。
バッテリー問題を解決する次世代技術:ワイヤレス給電
これらの製造業が抱えるバッテリー課題は、実はバッテリーの仕組みそのものが持つ「物理的な接点」と「充電という行為」に起因します。この構造的な問題を根本から解決する技術として、今まさに注目を集めているのが「ワイヤレス給電」です。
ワイヤレス給電とは
ワイヤレス給電(非接触給電)とは、電源ケーブルや充電コネクタを接続することなく、離れた場所へ電力を伝送する技術です。送電側と受電側のコイル間で磁界を発生させ、そのエネルギーを利用して電力を送ります。スマートフォンのワイヤレス充電器などが身近な例です。
従来の充電方式との違い
最大の違いは、物理的な接点が一切不要であることです。これにより、コネクタの抜き差しという作業そのものがなくなり、コネクタの摩耗や腐食といった問題も発生しません。ケーブルがないため、断線リスクもゼロになります。
製造現場での導入メリット
ワイヤレス給電を製造現場に導入することで、前述したバッテリーの課題を抜本的に解決できます。
- ダウンタイムの削減:生産ラインの待機場所や作業場所に給電エリアを設けることで、AGVなどが稼働中に自動で「継ぎ足し充電」を行えます。これにより、充電のためのダウンタイムがゼロになり、工場の稼働率が飛躍的に向上します。
- メンテナンスフリー:物理的な接点がないため、コネクタの摩耗や腐食によるトラブルから解放され、メンテナンスコストを大幅に削減できます。
- 設計自由度の向上:ケーブルやコネクタが不要になるため、機器の防水・防塵設計が容易になり、工場内のレイアウトも柔軟に変更できます。
- 安全性の向上:充電コネクタの火花や漏電のリスクがなくなり、作業環境の安全性が高まります。
AGV・AMRへの応用事例
特にAGV・AMRの分野では、ワイヤレス給電の導入効果が顕著です。従来の接触式充電では、充電ステーションへの正確な位置決めや、接点の汚れによる充電不良が課題でした。ワイヤレス給電なら、多少の位置ずれがあっても安定して給電でき、非稼働時間を最小限に抑えながら24時間連続稼働を実現できます。
ナブテスコのワイヤレス給電ソリューション
数あるワイヤレス給電技術の中でも、ナブテスコは製造現場という過酷な環境で真価を発揮する、産業用途に特化したソリューションを提供しています。
高効率・高出力を実現する独自技術
ナブテスコのワイヤレス給電システムは、独自の磁界共鳴方式と制御技術により、kW(キロワット)級の大電力を、高い伝送効率で供給することが可能です。これにより、小型のセンサーから大型のAGVや産業用ロボットまで、幅広い機器に対応できます。
製造ラインの稼働率向上への貢献
私たちのソリューションは、単に電力を送るだけではありません。お客様の製造ライン全体の生産性を最大化することを目的としています。「充電のための停止時間」をなくし、設備の稼働率を100%に近づけることで、企業の収益向上に直接貢献します。
導入実績と効果
すでに多くの自動車工場や物流倉庫などで、AGVの自動充電システムとして導入されています。導入企業様からは、「バッテリー交換作業が不要になり、人件費を削減できた」「AGVの稼働率が20%以上向上し、生産量が大幅に増加した」「充電不良によるライン停止がなくなり、安定生産を実現できた」といった高い評価をいただいています。
他社技術との比較優位性
ナブテスコの強みは、①高出力、②数cm程度の位置ずれや高さ変動を許容する柔軟性、③ノイズが少なく周辺機器への影響を抑える安定性にあります。これらの特徴により、常に動き、変化する製造現場のリアルなニーズに応えることができるのです。
バッテリー技術の今後の展望
全固体電池の実用化動向
今後、全固体電池の実用化が進めば、バッテリー自体の安全性やエネルギー密度は向上するでしょう。しかし、「どのように充電するか」という課題は依然として残ります。むしろ、高性能なバッテリーをいかに効率的に充電し、その性能を最大限に引き出すかが、より一層重要になります。
カーボンニュートラルとバッテリー
カーボンニュートラル社会の実現に向けて、工場の省エネ化や電動化は不可避です。バッテリーのエネルギーを無駄なく使い切り、効率的に充電するシステムは、企業の環境負荷低減に大きく貢献します。
製造業DXにおける電力供給の重要性
工場のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進み、あらゆるモノが繋がり、自律的に動くようになると、電力供給の安定性と柔軟性がこれまで以上に重要になります。ワイヤレス給電は、スマートファクトリーの神経網を支える基盤インフラとなり得ます。
給電技術のイノベーション
バッテリー技術の進化とともに、給電技術もまた進化し続けます。これからの製造業は、エネルギーを「蓄える」技術だけでなく、いかにスマートに「供給するか」という視点を持つことが、競争力を維持・強化する上で不可欠となるでしょう。
まとめ
本記事では、バッテリーの基本的な仕組みから製造現場の課題、そして解決策となる次世代のワイヤレス給電技術までを解説しました。
充電時間、メンテナンスコスト、設計上の制約といった課題は、ワイヤレス給電技術によって根本から解決できる可能性があります。
生産ラインの稼働率向上、バッテリーコストの削減、次世代製品開発の制約解消など、一つでも課題をお持ちなら、ぜひお気軽にお問い合わせください。




